-----a tactician・Crawford-----




「それで何?君からのラヴコールなんて珍しいね」
甘い台詞で微笑みながら、ルネは律儀に靴を揃えて部屋に上がった。
「まぁ座れよ」
最近来客が多い為に購入した、落ち着いた色合いの大きなソファーにルネを勧める。
シュンは椅子から立ち上がると、ソファー側に回って、デスクに腰だけをもたせかけた。
「ナルホド。良くないニュースね」
ルネの僅かな表情の変化を読み取る術は、組織の中でもトップクラス。
一言も話さない内に大まかな理由は伝わってしまった。
「ココ一週間でウチの持ち株の40%が一気に買い占められてる」
「ウチって?」
この組織は、子会社、孫会社まで合わせると膨大な数になる。それを把握している人間は、社内でもかなり少ないのが現状だった。
シュンは小さく息を吐くと、眼鏡に中指を添えて視線を落とした。
「ウチの持ってる中で一番売上の大きいカジノ・・・・・・・・お前のトコだ」
重い沈黙が部屋を覆った。
利益の高い場所から狙って買収していくという事は、すなわち組織全体の“侵食”を意味するもの。
その挑戦状を叩きつけられたという事だった。
「・・・・・・ドコかな、そんな楽しいマネしてくれてるのは」
若干低くなった声が、ルネの気持ちの揺らぎを表していた。
「以前から不穏な動きが見えたんでアランチェに張り込んで貰ってた裏会社・・・・・・“Z商会”」
「あぁ・・・・・・あのちっちゃい会社ね。確かに最近妙に景気いいと思ったよ」
Z商会は幾つかの支社を持つ、地元では力のある組織だった。決して小さくはないが、彼にとっては眼中にない“ちっちゃい会社”のうちのひとつだった。
「買収に規模は関係ない。問題は、ウチに対してソレが出来る人間があの組織に存在するという事実だよ」
ふーん、とルネは呟き、いつもと変わらない軽い口調で言う。
「じゃあ・・・・・・潰しとく?」
「どうやって」
小さく笑いながら眼鏡を外して、それを丁寧にデスクに置いた。
「そりゃモチロン、殴り込みとか?」
「・・・・・・怖いよ、相変わらず」
苦笑するシュンを見上げると、ルネは楽しそうに目を細めた。
「どう致しましょう?・・・・・・“a tactician・Crawford”?」
その言葉に一瞬驚いたように瞬きをすると、視線を外して、切なそうに笑った。
「・・・・・・久し振りに聞いたな、ソレは」
「前社長からご噂はかねがね。ある意味敵だった君と一緒に仕事出来る時が来るなんて・・・・・・彼が知ったら悔しがるよ。今でもどうして君がこの組織に入ったのか、それを知る人間がいないくらいだ」
「・・・・・・バーカ・・・・・・今は昔話してる場合じゃないだろ」
そうだったね、とルネは笑う。
シュンは腕を組んで、面倒臭そうに大きな溜め息を吐いた。
「しょうがないな、内々に処理しようか」
「・・・・・・本気かい?それ以前に会議にかけなくていいのかな、重要性高いと思うけど」
「ジャンヌは海外出張中、ルディアは別の仕事で出てる。ニコルは今期の決済処理で忙しいし。それにこの手の問題は時間との勝負だよ・・・・・・カジノひとつ、向こう側に渡したくなければね」
面倒そうに淡々と話すシュンに、恐ろしいのは君の方だよ、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
同じ部の人間ならまだしも単独行動の多いそれぞれの幹部、数え切れないほどの支社の動きまで全て把握している目の前の人間に、畏怖の念すら感じる。
もしかしたら関わっている人間全て・・・・・・自分達ですらひとつの“駒”に過ぎないのではないかと思えた。
「・・・・・・ヤラしい目で見ないでくれないかな、ルネ」
ルネは楽しそうに大袈裟に肩を竦めてみせる。
「はは、バレちゃった。こういう時の君はエロいよね、何かさ。好きだなぁ」
「ハイハイ」
「社長やみんなに流す?」
「いや、それも止めておく。変にウワサ立てられたら仕事に影響してくる」
「りょーかいボス☆」
「止めろよ、鳥肌が立つ」
へらへらっと敬礼をするルネに、眉を顰めて睨んだ。
「で。僕のスーパー殴り込み作戦で行くワケ?僕は構わないケドさ」
「騒ぎを立てたくない。話し合いがベストだろ」
「ユルいねぇ相変わらず・・・・・・いや」
一瞬思い直したように言葉を切ると、長い足を組んだ。
「そうね・・・・・・ウチに喧嘩売ってくる程の浅はかさだ。僕の美しい顔は知っていたとしても君の存在は知らないハズ。都合がイイじゃないか」
「まぁね」
二人は視線を合わせてにっこりと笑った。
「明日10時、久し振りに“現場”に繰り出そうか」
「お供致しますよ、ボス☆」